研究
高エネルギー宇宙物理学は、ブラックホール近傍やジェット、爆発現象など、地上では決して再現できない極限環境の物理を探る学問です。当研究室は、理論・シミュレーションと、X線・ガンマ線・電波・ニュートリノ・重力波などのマルチメッセンジャー観測を組み合わせて研究を進めています。研究は、宇宙の極限物理に迫る基礎宇宙物理と、その知見を宇宙時代の実課題につなぐ応用高エネルギー・放射線研究の2つのカテゴリで構成されています。
論文で公開している数値データは データ公開 ページにまとめています。
基礎宇宙物理
ブラックホールと MeV ガンマ線という2つの切り口を軸に、宇宙背景放射、銀河形成、星形成銀河、マイクロクエーサーまで、多様な天体現象の高エネルギー物理に挑みます。理論模型の構築から観測提案・データ解析まで、一気通貫で取り組めるのが当研究室の特徴です。
ブラックホール天文学
ブラックホールは、強重力・高温プラズマ・磁場・粒子加速が絡み合う、宇宙で最も極端な物理の実験場です。当研究室は、活動銀河核 (AGN) コロナの磁場を世界で初めて測定した研究 (Inoue & Doi 2018) を起点に、ALMA によるミリ波観測、IXPE による X 線偏光観測、XRISM による精密X線分光を組み合わせ、ブラックホール極近傍のコロナ・降着流・ジェットの物理の解明を目指しています。
対象は AGN コロナに留まりません。SS 433 のようなマイクロクエーサーのジェットにおける粒子加速、超大質量ブラックホール連星が生む nHz 重力波背景と銀河形成史との関わりなど、ブラックホールをめぐる多様な現象を扱います。コロナやジェットで加速された粒子はガンマ線やニュートリノとして観測される可能性があり、IceCube が捉えた高エネルギーニュートリノの起源とも深く関わります。理論と観測の両輪で、ブラックホール近傍を「マルチメッセンジャーの現場」として描き出すことを目指しています。
MeV高エネルギー天文学
MeV ガンマ線帯域は、X線と GeV ガンマ線の狭間に残された「最後の観測フロンティア」です。核ガンマ線や粒子加速の直接の証拠がこの帯域に眠っているにもかかわらず、感度の高い観測はまだ限られています。当研究室は国際共同気球実験 GRAMS に参画するとともに、COSI をはじめとする次世代 MeV ミッションに向けたサイエンス検討・全天予測に取り組み、MeV 天文学の開拓を進めています。
Fermi 衛星による GeV ガンマ線観測も活用しながら、宇宙ガンマ線背景放射の起源、ブレーザーや星形成銀河などの銀河種族、AGN コロナにおける粒子加速、ニュートリノ・宇宙線との対応関係を研究しています。装置開発からサイエンス検討まで、ミッションの成長とともに研究できる分野です。
応用高エネルギー・放射線研究
宇宙の極限環境を理解するために培った高エネルギー粒子・放射線輸送の知見は、人類の宇宙進出が直面する実課題にもそのまま活きます。基礎研究の手法を応用領域へ展開するのがこのカテゴリです。
月面放射線環境
月面には地球のような厚い大気や磁場の遮蔽がなく、銀河宇宙線や太陽高エネルギー粒子が直接降り注ぎます。これらが月面物質と衝突して生じる二次粒子 (中性子やガンマ線) まで含めた放射線環境の理解は、アルテミス計画をはじめとする有人月面活動の時代に不可欠です。
当研究室は、高エネルギー宇宙物理学で培った粒子輸送・相互作用の物理を用いて、月面放射線環境の理解と予測に取り組んでいます。宇宙線の変動や太陽活動と月面環境の関係を定量化し、将来の月面探査・滞在の安全性評価に貢献することを目指しています。